新聞掲載記事のご紹介 ― シリケート塗料メーカー「カイムファルベン」

※以下の文章は、2017年5月29日発行のミュンヘン市の新聞に掲載された上の記事を訳したものです。PDF版はここをクリックしてください。


クレムリンに使われたドイツ/バイエルン州の塗料

ケルハイムの開放会館、ミュンヘンのアリアンツ・アリーナ、モスクワのクレムリン、そして、ワシントンのホワイトハウス、これらに共通するリンクは何だと思いますか。
「塗料」です!
これらの建物にはすべてKeimfarben GmbH(カイムファルベン社)の塗料が使われています。シュヴァーベンにあるこの小さな会社が、ルートヴィッヒ一世の命を受けて特殊な塗料を開発したのは、今から130年前の事でした。

ミュンヘンにて ―
「色は触れて感じることができます」そう言いながら、リュディガー・ルーガート氏は親指で優しく建物の壁をなでた。「ナチュラルでシルキー。それがシリケート塗料です。自然な感じでなく精彩に欠けるのはエマルジョン塗料」とルーガート氏は言う。

カイムファルベン社の社長、ルーガート氏は色の世界を熟知している。アウクスブルク市近郊のディードルフ/Diedorfに拠点を持つこの中規模企業は、100年以上前から塗料を製造してきた。ワシントンのホワイトハウスやモスクワのクレムリンには同社の塗料が使われている。 バイエルン州でも、カイムファルベンの塗料で塗装された建物は非常に多い。「私達はバイエルン州の全ての城を塗装しました。ケルハイムの解放会館、外皮構造ができる前のアリアンツ・アリーナ、そして、多くの戸建住宅なども」とルーガート氏は言う。

カイムファルベンは、シリケート塗料の世界的リーダーである。シリケート塗料は、エマルジョン塗料と異なり、石から作られる。「塗料が塗り壁等に塗装されると『シリサイド化』が起きます」ルーガート氏は説明する。 特殊なバインダー、顔料、鉱物原料が混合されると、液体カリウムシリケートとカリウム水ガラスができる。 従来のエマルジョン塗料にはバインダーに石油が使われていて、壁に塗られた塗料は、乾燥しながら表面にはり付きはするが密着はせず、耐久性もあまり高くない。

企業秘密であるシリケート塗料調合技術を、ルーガート氏は親しみを込めて「コカ・コーラのレシピ」と呼ぶ。創始者アドルフ・ヴィルヘルム・カイムがルードヴィッヒ一世の要望を受けて開発した技術で特許を取得したのは130年前の事だ。

創業の歴史をルーガート氏はこう語る。「ルートヴィッヒ一世は旅行中にイタリア北部の壁画に感銘を受けたことがありました。それは非常に芸術的で、輝くように見事で明るい色の石灰フレスコ画であったそうです。当時、19世紀末頃のミュンヘンでは、本格的な工業化が進められ、スモッグの厚い層が都市を覆い、廃棄物を含む空気は塗料を攻撃しました。その結果、塗料の寿命がとても短くなってしまう事が判明しました。冬の厳寒期には下地までももろくなりました。 ルートヴィッヒ一世は、天候や環境汚染に左右されない塗料を開発するよう、バイエルン州の識者に命じました。陶芸家でもあった化学者アドルフ・ヴィルヘルム・カイムは、のちにビジネス成功の基礎となる調合レシピを研究室で開発したのです」

6つの異なる顔料から、カイムファルベンの色の専門家達は、考え得る限りのカラーを調合する。 「お客様の中には、私達に写真やTシャツを送って来て、この色を自宅の壁に塗りたいと仰る方がいます」ルーガート氏は言う。ディードルフの色の専門家にとってこれは全く問題ない。

「塗料の色は、数年だけでなく、何十年も変わりません」とルーガート氏は強調する。だからこそ、前世紀にカイムファルベンの塗料で仕上げられた建物が今も健在である。スイスのシュヴィツ市にある市庁舎の建物は1891年に塗装されたが、その色は今も美しい。しかしそこまでの耐久性には、それなりの価格がつくはずである。ルーガート氏は言う。「競合製品と比較すれば幾分高価です。しかしそれだけの価値がある事を、お客様はわかって下さいます」

130年前のビジネスモデルは今なお非常に成功を収めている。1878年に設立された同社は、現在、建設グループのレオンハルト・モルに属する。ディードルフでは450人が働く。同社は、外国に11社の子会社を持ち、提携ディーラーは60社にのぼる。年間約35,000トンの塗料が生産され世界中で販売されている。顧客のリストは非常に長く、著名な名前も数多い。

モスクワのクレムリン宮殿の一部、ウィリアム王子とキャサリン妃が住むロンドンのケンジントン宮殿、シドニーのオペラハウス、ベルリンの首相府、これらの建物は同社の塗料で塗装されている。

数年前、カイムファルベンは非常に権威のあるプロジェクトを得た。米国アーリントンにある軍事墓地の新規塗装に同社の塗料が使われた事によって、ワシントンのホワイトハウスが同社に対し興味を持ったのだ。ある建築家から、ホワイトハウスからのコンタクトがもたらされ、新規塗装の機会を得た。アメリカからディードルフに漆喰のサンプルが送られ、色の専門家達は研究所で、後に正式名「ウィスパー・ホワイト」と呼ばれることになるカラーを完成させた。その番号は812285。ホワイトという色ではないとルーガート氏は言う。「それはむしろ、象牙色です」

同社が米国に社員を派遣して研修を行ったチームは現在も活躍する。壁に新しい塗装が必要となればいつも、812285番のペール缶がワシントンに送られるのだ。


「 塗装したい建造物を一つ選ぶことが許されるなら
私は、宇宙から見ることができる唯一の建造物 ― 中国の万里の長城を選ぶだろう」
リュディガー・ルーガート、カイムファルベン社長


記事:Manuela Dollinger